保険屋さんこそ相続を知ってほしい|相続の現場から保険営業の方へ
相続の仕事をしていると、保険営業の方と一緒にお客様の相談を受ける機会がよくあります。そのたびに感じるのが、「保険屋さんこそ、相続の知識をちゃんと持ってほしい」ということです。
生命保険は、相続対策でとても力を発揮する道具です。一方で、相続の全体像を知らないまま勧めると、お客様のためになるどころか、かえって家族の問題を大きくしてしまうこともあります。
この記事では、相続の現場に立つ行政書士の立場から、保険営業の方に知っておいてほしいことをお伝えします。
検査をせずに薬を出していませんか
たとえば、こんなご相談があったとします。
68歳の男性。「預金が4,000万円ある。相続税が心配なので、そのうち1,500万円を生命保険にしたい」
「相続税対策なら一時払いの終身保険で非課税枠を使いましょう」と、すぐに提案したくなるかもしれません。でも、この時点ではまだ何も提案できないはずです。
- 家族は何人いるのか。相続人は誰になるのか
- 預金のほかに、自宅や土地などの不動産はあるのか
- そもそも相続税はかかるのか
- 財産の分け方で、家族がもめる心配はないか
- 本人や配偶者の老後資金・介護費用は足りるのか
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。妻と子ども2人なら4,800万円になります。ほかの財産しだいでは、相続税はほとんどかからないかもしれません。その場合に必要なのは、税金対策ではなく、分け方や老後資金の備えの方です。
現状を確かめずに保険を勧めるのは、検査をせずに薬を出す医者と同じです。保険が悪いのではありません。保険から考え始めることが問題なのです。
保険営業の方に知っておいてほしい相続の基本
相続の相談を受けるときに、最低限押さえておいてほしいポイントです。
1. 死亡保険金の非課税枠
相続人が受け取る死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。相続人が3人なら1,500万円までです。ただし、相続人以外(たとえば孫)が受取人だと、この非課税枠は使えません。
2. 契約の形で、かかる税金が変わる
| 契約者(保険料を払う人) | 被保険者 | 受取人 | かかる税金 |
|---|---|---|---|
| 父 | 父 | 子 | 相続税 |
| 子 | 父 | 子 | 所得税(一時所得) |
| 母 | 父 | 子 | 贈与税 |
同じ「父が亡くなって子が保険金を受け取る」でも、誰が保険料を払っていたかで税金の種類が変わります。贈与税になると、税額が大きくなることがあります。
3. 保険金は原則として「分ける財産」ではない
死亡保険金は受取人固有の財産で、原則として遺産分割の対象になりません。この性質を使えば、「自宅を継ぐ長男が、ほかの兄弟に払う代償金を保険金で用意する」といった設計ができます。
反対に、特定の相続人だけに多額の保険金が渡るように組むと、ほかの家族の不満の種になります。保険金と遺産の総額との比率などから、著しく不公平といえる特別な事情があれば、保険金も遺産分割で考慮されるとした最高裁の判断もあります(平成16年10月29日決定)。
4. 認知症になると、保険の見直しができなくなる
契約者が認知症で判断能力を失うと、受取人の変更や解約などの手続きが難しくなります。「元気なうちに見直す」ことの大切さは、保険も相続対策も同じです。
相続の問題は、5つに分けて考える
私は相続のご相談を受けるとき、問題を次の5つに分けて考えます。
| 分類 | 中身 | 保険で解決できるか |
|---|---|---|
| 生活 | 残された家族の生活費・老後資金・介護費用 | できることが多い |
| 管理 | 認知症になった後の財産管理 | 保険だけでは難しい(家族信託・任意後見など) |
| 分割 | 財産の分け方・家族の公平感 | 代償金の準備などで役立つ |
| 納税 | 相続税の支払い資金 | 納税資金の準備に役立つ |
| 感情 | 家族の関係・本人の想い | 保険だけでは解決できない |
保険が力を発揮するのは主に「生活・分割・納税」です。「管理」や「感情」の問題は、保険だけでは解決できません。お客様の課題がどこにあるかを見極めたうえで、保険を使う、使わない、ほかの方法と組み合わせる、を判断するのが本当の提案だと思います。
自分で全部やろうとしなくていい
相続には、税金・法律・登記・不動産など、さまざまな専門分野が関わります。具体的な相続税の計算は税理士、遺産分割をめぐる交渉は弁護士、登記は司法書士の仕事です。保険営業の方がそこまで踏み込んで助言すると、法律に触れるおそれもあります。
大切なのは、問題に気づいて、適切な専門家につなぐことです。相続の知識は、自分で答えを出すためではなく、お客様の話から問題に気づくために必要なのです。
「この保険屋さんは保険の話をする前に、家族の全体像を聞いてくれた」。お客様にそう感じてもらえる担当者は、長く信頼され、紹介も生まれます。
まとめ
- 保険は相続対策の有力な道具。ただし、現状を確かめずに勧めると逆効果になることもある
- 非課税枠、契約形態と税金、遺産分割との関係、認知症リスクは最低限押さえておきたい
- 相続の問題は「生活・管理・分割・納税・感情」に分けると、保険の出番が見えてくる
- 答えを全部自分で出す必要はない。気づいて、つなぐことが信頼につながる
当事務所では、保険営業の方からのご相談やお客様のご紹介をお受けしています。相続の全体像の整理から手続き、家族信託まで、提携の税理士・司法書士とともに対応します。くわしくは紹介元パートナーの皆さまへのページをご覧ください。
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